夏休み期間中に読んだ本の感想まとめ

磯崎憲一郎『終の住処』

 芥川賞受賞作。冷め切った夫婦の十一年。「ガルシア・マルケスの影響下にある」と言われたら、確かにそんな気もする。蓮實重彦の解説を読んだら、なんか分かったような気もする。そんな小説。

 

朝吹真理子『きことわ』

 芥川賞受賞作。25年後に再会するふたりの女性。何故かネットでクソミソに叩かれていて可哀想。個人的には技巧的でありながら、そうした不自然さの全くない流れるように自然な文章がとても良いなあと思った。

 

木田元『反哲学入門』池上英洋『西洋美術史入門』

 大学の授業についていくために読んだのだが、どちらもわかりやすい。特に『反哲学入門』の、ハイデガーとナチズムの繋がりにまつわる記述は読んでいて面白かった。

 

百田尚樹永遠の0』 高野和明『ジェノサイド』

 再読。いい加減、自分と違う歴史観の持ち主を「悪役」として書く安直さからは卒業した方がいいような気がする。(というか、こういう場合「何故その人物がそうした歴史認識をもつに至ったか」という小説的に肝心要の部分が描かれず、ただ作者の価値判断ばかりが語られるので非常につまらない)

 

石川博品『メロディ・リリック・アイドル・マジック』

 珍しいかもしれない「アイドルもの」のライトノベル。ふざけているように見えて、その奥には青春の真摯な希求が煌めいている。ポップかつ繊細な文体も魅力的で、特に主人公ナズマが「色聴」によってアコの輝きを視るシーンは圧巻。

 

平野啓一郎『マチネの終わりに』

 40代、ギタリストとジャーナリストの恋愛。とにかく文章の完成度に圧倒される。多種多様なエピソードが配置されているが、個人的には洋子とリチャードのすれ違いが印象的だった。

 

小野正嗣『九年前の祈り』

 芥川賞受賞作。障害児の子をもつシングルマザーの物語。男性が書いたとは思えないほどリアルで生々しい女たちの姿。カナダ旅行での「祈り」の記憶が、現在とふとリンクする瞬間が素敵。

 

村上春樹『色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年』

 村上春樹作品の中では過去二番目につまらなかった。とにかく「つまらなかった」以外の印象が全くない。

 

阿部和重グランド・フィナーレ

 芥川賞受賞作。家族を失ったロリコンの話。「映像」でしか少女と向き合ってこなかった主人公が、第2部で「言葉」を以て少女たちの哀しみと対峙する……それはわかるんだけど、どうにも小児性愛自体の情念がいまいち伝わってこない感がある。

 

東山彰良『流』

 直木賞受賞作。満場一致で決まったらしい。台湾を舞台に、17歳の高校生、秋生が祖父の死の真相を追いかける青春ミステリー。暴力、恋愛、苛烈な国共内戦の過去、様々な要素が絡み合ったスケールの大きな小説。評判通りの面白さ。

 

須賀敦子『ミラノ 霧の風景』

 『ユルスナールの靴』を読んで以来、須賀敦子のような文章を書くことは僕の人生の目標のひとつである。ゆったりとして、かつ論理的な記述。小さなエピソードを積み重ねてひとつの情景、ひとりの人間を確かに描き出していく手つき。是非イタリアに行ってみたい、と強烈に思ったものだが、残念ながらイタリア語の参考書は買って二時間で漬物石と化した。